Little AngelPretty devil
     
 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “雨でござい”
 


ほんの10日も挟まぬ先週、
この時期だというに なかなか雨が降らないなぁ…なんて、
恨めしげに言ってたものが。
その酷暑も大きに影響してのこと、
順当な梅雨の雨のはずが、
ところによっては
凄まじい豪雨や粘り強い長雨という形で降り続けており。

 「暑かったから、なのですか?」
 「おうよ。」

あばら家屋敷の広間にて、
篠つく雨に 時折声音を塞がれながらも、
陰陽師の師弟がそんな話を交わしており。

 「気温が高いと何が起こるね。」

文机の前に座り込み、
さらさらと何やら書き付けて弊を作っておいでの師匠から、
大雑把な物言いで そうと聞かれて。
お弟子でもある書生くん、
まだ幼いお顔を真摯なそれとし、
えっとぉ…と考え込んでから、

 「入道雲、ですか?」

思い当たったものを口にする。
本来、真夏の暑い盛りにムクムクと沸き起こるものだが、
急な気温の上昇に暖められた空気の塊が
空気中の水分ごと勢いよく上昇することで出来る雲で、
あまりに勢いよく上昇するがため、
水分は一気に大きな雨粒になり、
自分の重さに耐え兼ねて、やはり一気に落ちてくる。
それが凄まじい勢いのにわか雨となるのだが、

 「夏場の入道雲なら、
  限られた地域に垂れ込めてた
  湿気だけがかかわる雨で済むのだが。
  梅雨の雨は、
  南西の大海の上へかかってた気団が抱えて来た、
  膨大な湿気のもたらすそれだからの。」

 「…あ。」

連日の猛暑で高い地熱が居残る地域へ、
湿気の塊がどどんと押し寄せれば、
次々に積乱雲が生まれるのも道理。

 「そかー。
  それでこんな分厚い長雨になっているのですね。」

陰陽師がそこまでの学問を必要とするかは微妙だが、
こちらのお館様は、殿上人の神祗官補佐様でもあるがゆえ、
天文やのちの気象学に通じる地学といった知識も持っておいでで。
好奇心が旺盛な年頃の瀬那くんからの“なぜなぜな〜に”へも、
遺漏なき答えをスラスラと答えてしまわれ、

 「まま、そんな理屈も
  関係ない手合いが相手なのだがな、俺らは。」

勿論、本来の役職へは
そういった天候の異変による被害への対処も含まれようが、
采配は大臣らが政治の一環として奮うもので、
自分たちは学者としての参考意見を述べるまで。
そしてそれならば、
上司の神祗官様がいらっしゃれば間に合う話なので、
過去の資料を精査するのは、それこそ助手らへ任せ、
ご本人の蓄積も生かし、ばりばりと奮闘していただけばいい。

 「俺らは、
  この湿り気に乗じて精気を増す馬鹿共を
  叩いて回らにゃならぬからの。」

時折 耄碌した振りという茶目っ気を出しては、
蛭魔を引っ張り回すことも多かりしの上司殿だが、
そこはそれ、本物のおタヌキ様ならではの、
巧妙なさじ加減も存分に発揮なさり。
京の都という、土地に染み付いた様々な怨嗟や何や、
それらが巻き起こすらしい騒ぎのほうへこそ、
こちらの術師は向かわせた方がいいと
ちゃんと判っておいでなものだから。
この時期だと月次祭や大祓への準備で忙しいのだが、
突発でどこやらの森に妖かしが騒ぐなんてな話が聞かれれば、
こちらの負担を減らしても下さるのが、

 “小憎らしいたらねぇよなぁ。”

日頃の耄碌が演技だってのがバレバレじゃんかよなと、
そこが微妙に腹立ちの素でもあるのだが。
堅苦しい宮中で、
時に人の揚げ足取っては仕事の進捗に棹さす権門の馬鹿者たちと、
余計な水面下の戦いをしつつ、
面倒な準備だの調整だのに奔走しまくるよりは、
独鋸や咒弊を引っ提げ、
邪妖の成敗に出掛けるほうが気も晴れるというもので。

 「よっしゃ。行くぞ、ちびっ。」
 「はいっ!」

陽が落ちれば涼しい風も吹く宵の口。
黒の侍従様が頼もしい傍づきを務めるべく、
庭先にて待ち受けるのと合流し。
今宵も颯爽と出陣なさるのへ、
縁の下から小さな百合の蕾が 頭を垂れたまま見送ってくれた。




   〜Fine〜  14.06.09.


  *いやはや、降れば降ったで半端ない豪雨なのもまた
   このところの梅雨ですよね。
   全く振らないのも困りますが、
   余計な災害まで連れて来ないでほしいものです。

   そしてこちら様は、
   相変わらずに上司様との微妙な綱引きもお在りのようですが、
   真の実力あるおタヌキ様は、
   こういうときの采配もお見事で。
   宮中の、誰にでも出来ることはこっちへ任せなさいと、
   さりげなく気を回して下さるらしいですが。
   “…あんの大ダヌキめが”と、
   お館様にはやっぱり面白くはないらしいです。(苦笑)


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